途 方

 安田 宏

命のバトンを受け継いで、今の自分がいることを、途方もないことだと思う。
  何時、いかなるときも、誰かがランナーの役目を引き受け、偶然の連続をくぐってきたからこそ今がある。
  しかし、運、良く授かったこの命も、この世にはほんの一瞬しか存在しない。
  だから『命は大事にしなくては』と、そんなことを思っていたとき、『ゴビ沙漠で植樹を』との誘いを受けた。
  はじめの頃は、『ゴビ沙漠に木を植える』ということは、自分には、さして関係のない途方もないことだと思った。
  ところが、実際に、植樹活動に参加し、沙漠の炎天下で、骨の間から出てくるような玉の汗をかいてみて、このことが意外にも、わが身の命の洗濯となった。
  そこで、これは、一体、何なのだろうかと考えてみると、今、この広大な大地で自分のしていることが、あまりにも頼りないものであるということを、謙虚に感じたことによって、あれこれと忙しい日常を忘れてしまったからのような気がした。
  何だか沙漠で植樹をするという途方もない遠大な計画へ、自らが係わることのできる僅かな時間と、その至らなさが妙に納得できた。
  また、今回のこの活動への参加は、自分にとって、ひと時とはいえ、植えたポプラの木が将来どのように育っていくかとか、この沙漠がどのように変化するかとか、これからの地球環境はどうなるのだろうかとか、途方もないことに思いを致すことと合わせて、自分自身の存在の儚さと、今を楽しむことが出来た貴重な旅となった。
  このようなさも途方もないボランテイア活動にも結構な楽しみが有る。これから一人でも多くの人々を誘い、これを継続したいと思う。
  団長をはじめとする、先輩たちの再々のこの活動への参加には、本当に、頭の下がる思いがする。
  せめて、自分も微力ながら、このポプラたちの成長を見るために、何年か後には再び、出かけたいと思う。
  いつの日か、ここが緑あふれる大地となることを切に願いたい。